『曹操 魏の曹一族』陳舜臣

keel

2006年07月19日 02:17

学者ウケがいいと言われることの多い陳舜臣の三国志小説。

図書館に秘本三国志がなかったので読んでみることに。
政治家曹操や英雄曹操という立場から描いたものではなく、曹操の実生活的な観点から描かれたものと認識。

曹操だけでなく、父曹嵩や息子たちも絡めて、より人間的な描写に勤めている。更に、その時代の文化や風俗、宗教や流通も絡めて語られてるあたりに、学者ウケがいいといわれているんだろうな、と思った。
ほか、正史に描かれたシーンの解釈(干禁の投降理由とか)は他作品と比較してもかなり卓越しているので、この点も評価されているんだろう。


曹操の周りにいるのはオリジナルの人物が多いが、皇后の父親をパトロンっつーかスポンサーっつーかそういうのに仕立て上げてしまうのには思わずうなずいてしまった。でもまあ、従妹の女はどうかと思った。存在自体はわからなくもないが、小説の役割を考えると郭嘉の出番がなくなるだけの存在になっているような…

まあ、オリジナル要素も、人物そのものはともかくとして、天下を取るために必要そうな人間を配置したり、宗教や匈奴も絡めてみたりと、三国志を語る上での必要な部分も掬い上げていて悪くはなかった。

個人的には曹純や韓浩の話が見たかったが、そういうの言い出すとキリがないので評価には含めない。
鮑信とか出てたからOKで。


難点は、基本的に小説としてあまり出来が良くないこと。

三国志を物語として語る場合は、この点が必ずネックになり、真面目な作家であればあるほどこの点に苦心しているのではないだろうか。

何しろ、一言で三国志と言っても、認識は多種多様。主人公を曹操にしても、曹操の人物像もまた多種多様。それから一つ選んで、若しくは自分で作り上げていかなくてはならないので、まずここで苦労する。
それなのに、小説の流れとして、描きたい点に力を入れられずに三国志の定番ネタである話を挿入せざるを得なかったりで、話がややこしくなってしまう。特に連載だからだろう。
その連載だった点も辛く、前を読んで後を読むという作業は改変に苦しく、どうしても辻褄が合わなくなってしまう。

ただ、それを差し引いても文章そのものはあまり読みやすいものじゃなかった。一文一文は読み易いが、文のつながりが非常に悪く、読んでる途中で混乱してしまう。ただ、そのおかげで曹操が死ぬ寸前の場面はかなり良く描けていた。

あと、曹操を主人公にする弊害なのだけど、主人公らしからぬ悪行は描けないことで、他を悪く描かざるを得なかったこと。これは蒼天公路もそうだったけど、他物語と同じように曹操サイコ−の立場で描くと、単なる嫌な奴になってしまう。
善悪あわせた極人間的な超世の英雄が、完璧超人的に描かれてしまうのは残念だった。
孔融の扱いとか、その辺が特に。


それでも俺としては満足はしている。知りたかった部分は、必要以上に書から読み取れた。いや、後漢書が全然読めなかったんで。
面白いよ、と言って勧められるほどではないものの、三国志の一つの読み物としては、十分すぎるほどの価値はある。


この日はこれで終わり。
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